「バカじゃないの?」
「……でも、少しでも役に立てるなら」


こういうことで頼れるのは雪生だったけど。今、こういう状況で雪生に合わせる顔がないわたしには、当然雪生になんか教わることも出来なくて。
だって、そんなことしたら、手助けどころか余計に足を引っ張ることになるし。

だからって、この人も仕事をしてるわけで、しかも当然雪生と違って話しかけづらいものだから、なにかを聞くってことも出来ずにただ自己流でこんなバカみたいなことをしてた。

「バカじゃないの?」って言われても、全くその通りだと思うからなにも言えない。


「……すみません。邪魔して。あとは帰って、自分でなんとかやってみます」


最後の一本の線を引きながら、ここに居る意味がないことをやっと悟って言うと、苛立った声が飛んでくる。


「あー、もう! そーじゃねーよ!」


だけどその言葉には、怖いとかそういうものは全然感じなくて。
ぶっきらぼうに、世話を焼いてくれるような、そんな不器用な優しさみたいなものを逆に感じてしまうくらいだ。


「ペン先の向きが逆! 裏返しなんだよ、さっきから!」
「逆……?」
「ああ! それと、定規は裏返せ。インクが定規の下に滲みづらくなる。あとはペンの重さだけで引け!」
「え? あ、はい……」


大きな声を出されても、やっぱり怖くない。
外崎さんも、雪生とはまた違う方向で不器用なのかも……。

頭ではそんなことを考えつつ、言われた通りにやってみる。

あ。ほんとだ。さっきよりペンが柔らかく感じるし、心なしか描きやすい気が……。

指摘される前の線と、今引いた線では確かに目に見えて違う。でも、当然こんなんじゃ、“役に立つ”なんて出来やしないことも、一目でわかる。
自分が描いた線を見つめ、ふと思い出す。