「なにしても、勝てない。だから」
「『だから』わたしを利用したくなった?」
「……そーいうことだな」
「でも、結局は最後まで遂行してないですよね? それって、怖気づいたとか同情したからとかじゃないですよね」


……そう。さっき、澤井さんが来る前に感じ掛けてたことを思い出す。
男の人だし、こういうの、はっきり言われたらウザがられそうだけど……。でも、ゼッタイそうだと思うから。


「外崎さん、雪生のマンガ、好きなんじゃないんですか?」


今まで背中しか向けてなかったのに、瞬時に振り向き丸い目をわたしに向けた。
その顔は、あからさまに“図星”と言えるようなものに見える。


「――ばっ……か、じゃねぇの?」
「“つまらないと思うから嫌い”じゃなくて、“面白いと思うから悔しい”っていう感情なのかなぁ……と」


自分でも驚くくらい、すらすらと外崎さんに向かって口が動く。
あれだけ前半は彼に弄ばれていたのが嘘のように、今度は向こうが戸惑う番。


「いいですね、そういうの……」
「――――は?」
「だって、ライバルとしてでもお互いに成長させるものがあるんだろうし……。そこいくと、わたしなんて、役に立つ要素がゼロですから……」


俯いて、自嘲気味に力なく笑う。

ほんと、そう。お互いを高め合える関係だなんて、男の人同士だっていうのに妬けてしまう。
わたしはと言えば、仕事の進捗にも影響させて、それを気にしてメシスタントも全う出来ずにいそうだなんて。

行き場のないのは心だけでなく、体も。

長い溜め息を吐いて、体を翻そうとしたときだった。


「さっきも言ったけど」


ピンと張ったような声に、思わず顔を上げる。


「初めから出来るヤツなんてほぼゼロ」


真っ直ぐとわたしを見る彼は、目が合うとまた少し照れくさそうに、ふいっと顔を逸らして言った。


「この袋ん中に入ってるの、やるよ」
「……?」
「――使うも遣わないも、自由だけど」


そう言って、紙袋を手にしてわたしに向けた。
帰ろうとしていた足を、再び部屋へと戻し、わたしはその袋を受け取った。