「な、にする――」
「今も、仕事は危ういかもしんないけどさ」


覆いかぶさり、両手でわたしを挟むように手をつき、微笑をたたえながら外崎さんは続ける。


「もっと大事なのを失って、虚脱してるアイツも見ものかなーなんて。それに、そうしたら余裕で順位も勝てちゃうよね」


雪生(彼)の手を取らずに、他の男の家に留まることを選択するなんて、常識で考えておかしいことをしてるって今ならわかる。
ただ、さっきはこういうことまでは考えられずに、とにかく『雪生の元にはいけない』ということだけが先行してしまって。

その結果、こんなふうに、“危険”な状況に身を置かれているわけだけど……。


「そんな勝ちなんて、それこそ価値がないって気付いてますよね……?」


雪生の本を、全部綺麗に並べているあなただから。
そこまで姑息な手段を、本当に決行するわけなんてないって、わたしは信じる。

だから、ココに足を踏み入れたときよりも、全然恐怖感なんてない。

真っ直ぐに外崎さんの目に向き合うと、それ以上わたしに近づくことなく、「ちっ」と舌打ちをして体を避けた。

ギシッとベッドから立ち上がるのを見届けると、内心少しほっとして。
それからゆっくり体を起して、外崎さんの動向を見た。

わたしの動きに音で気づいたからか、こちらを見ることをせずに、机周りを弄りながら言った。