『――責任もって、“イロイロ”教えとくんで』。


外崎さんが一方的にそう言って、雪生は唖然としたまま追い出されていった。
きっと、わたしが雪生の手を取らなかったことに疑問と衝撃を与えてしまったのかもしれない。

玄関から施錠の音が聞こえる。雪生はインターホンを鳴らしたりドアを叩くこともなく。静かなとこを見れば、あっさり諦めて帰ったのかもしれない。

……こんな、わたしなんかで時間を費やすのも勿体ないだろうし。


「……まーた暗いこと考えてんね?」


ドア枠に片肘を添えるようにして、外崎さんが言った。

また、わかりやすい顔をしているんだ。でも、そんなのいまさらで、全てを見られてしまった彼に、隠すものなんかもうない。


「――てっきり、王子と帰るかと思ったのに」


冗談混じりで笑って言われても、わたしは全然笑えない。

自分のこととかなにも考えないで、ただあの延ばされた手の中に飛び込んでいけたなら。

そんな幸せなことってない。けど、小心者のわたしには、“知らないフリ、見ないふり”をして、手を取ることなんかできなかった。
何食わぬ顔で、雪生の隣で今まで通りに笑うなんてこと、出来ないから。


「……ま、別に俺はいーけど」


わたしが長く押し黙っていると、外崎さんが歩み寄ってきた。
そして、目の前までくるとひょいっとわたしを肩に担ぐ。驚いて、短く声を上げてもお構いなしに、奥のベッドへと投げおろした。