「――そんなコトしてても意味ないッスよ、ユキセンセ」


いつも明るいカズが、シリアスな顔をして淡々とした声で制止する。


「澤井さんをこんなふうに責めたって、なんにもかわらないスよ。一連の話から、おれが思うに、ミキちゃんが戻ってくる方法は他にあるかと」


……カズのくせに。――――いや。やっぱり、視野をいつでも広くもって、鋭く状況を把握して、“カン”のいい答えを弾きだすのがカズだったな。

澤井さんの選択もやっぱり正しい。
この場にカズを招き入れたのは、こうなることを計算済みでそうしたんだろう。

だんだんと落ち着きを取り戻し始めたオレは、冷えた頭で今すべきことを考える。
そして、乱暴に掴んでいた襟先をそっと離すと、くるりと踵を返して椅子に着いた。


「……まずは原稿(コレ)、終わらせる」


放置していたメガネを掛け、無理矢理仕事モードに切り替える。


「……じゃ、俺、行くから。和真くん、あとよろしく」
「あ、ハイ……」
「ああ、そうだ。ユキ」


帰りかけた澤井さんがリビングを出る直前に足を止め、顔だけ振り返ってオレを呼んだ。
オレは手を止め、視線だけを澤井さんに向ける。


「色紙。忘れんなよ」
「……わかってるよ」
「……ユキでもキレんだな。担当んなってから初めてだったから、新鮮だった。んじゃな」


……オレだって、“キレた”ことなんて久々だよ。
怒ったって、なんにも生み出さないし、いいことなんてないのに。それでも、つい爆発してしまうのは、人間だったら仕方のないことなんだ。

――それに、結構スッキリした。