「けど、まさかこんなにスピードに影響してくるとは。不器用なんだなぁ、ユキは。まぁ、彼女の方に言っておいたからなんとかなるか」


――“怒り”。


「――――って!!」


それは、痛みに顔をしかめながら漏らした澤井さんの声。

思わず体が勝手に動いてしまう。
自分の手が、勝手に。頭で考えるよりも先に、オレの手が澤井さんの腕に食い込むほどの力で掴みかかってしまった。


「……それ、詳しく聞かせて」
「ちょ、なんだっ? ユキ! 手、離せっ……て。っつ!」
「澤井さん、なんて言ったの? 美希に」


オレの手を外そうとしたようだけど、それが出来ないと諦めた澤井さんは、整った顔を少し歪めて応える。


「『なんて』って……。『ユキをよろしく』って……」
「――いや。たぶん、もっと別の言葉」


もし、オレの想像しているような内容の発言なら。美希は絶対に気にしてしまう。
おそらく、オレから『離れなきゃ』と思わされるくらいに――。


「ユキの……ペースダウンの話に、『通りで』って……言った、ような」
「――――それだ」


あのとき、美希が一度もオレを見ようとしなかったワケは。
外崎に気持ちが向いたとかじゃなくて、単純に自分の居場所がココでいいのかわからなくなって。


「……っんで!! なんで、そんなふうに言ったんだよ?!」


オレは力任せに澤井さんを押し、バランスを崩した彼はソファに腰を落とした。