――もしかして、外崎に心が傾くなにかが、あるから……?

……いや。そんなこと、あるわけない。
少しの時間しかまだ一緒に居なくても、それでも感覚でわかってるつもりだ。

彼女は、なにに対しても真面目で、誠意を持って応えてくれる人間だということを。


「――――行こう、美希」


1ミリも疑ったりなんかしていない。
だけど、その言葉と同時に手を差し出すのが、なぜか怖い。そう、これもまた、直感だ。


「…………い、けない」


“今の美希は、この手を取ってはくれない”、と――――。


「な、ん……で」
「ハイ。残念。このコはまだ帰ることを望んでないようだったね?」


ポン、と美希の肩に手を置いた後、くるりと身を翻し、またオレの方へとやってくる。
そのまま背中を押され、玄関まで押しやられると、顔を近づけてボソリと囁く。


「――責任もって、“イロイロ”教えとくんで」
「な――――っ……」


反論しようとしたときには、開かれた玄関の向こうに追いやられていた。
バタン、と閉まった玄関を茫然としばらく見つめて。

どうしたらいいのか、全然わからない。
その場にしゃがみこんでいたけれど、他の住民の足音が聞こえてきて、反射的に立ちあがり、アパートを出てしまった。

後ろ髪を思い切り引かれてるオレは、アパート前でもしばらく建物を見上げる。
そこでも、道行く人の視線が気になり始めて、渋々オレは来た道を戻って行った。

向かうときは、頭ん中はひとつだけで。全力疾走だったから、余計に帰路は長く感じてしまう。それに、足も重い。

ぼんやりと、陽炎のみえるアスファルトを眺める。