「仕事か? オレが理由なんだろ?! そういうのやめ」
「ちょっと頭冷やせって。興奮した牛かよ、ったく」


焦る様子も見せず、掴まれていたオレの手を軽く払いのける。そして、シャツの皺を伸ばしながら、向かう先は――美希のところ。


「確かに、ね。ちょっとイタズラ心が芽生えて、彼女を引っかけたのは事実」


外崎が近づいて行っているのがわかっていながら、オレも、美希もその場から動こうとしなかった。
外崎だけが、状況を冷静に分析して、広い視野でオレたちを見ている気がする。


「ちょーっとアンタが悔しがって、ついでに原稿落としたら面白いのになぁー……ってね」
「……悪趣味だぞ」


「イタズラ心」なんかじゃ済まされないだろ。……オレにしたら。
じゃあ、他の人には通じる冗談なのか? コレは。もしそうなら、オレはやり過ぎ? 外崎の家にも関わらず、しかも、その家主の前で美希にキスまでして。

だんだんと心に暗雲が立ち込めそうになったワケは、美希が隣にこないから、だ。

――嫌われた? こんなところで、後先考えずに行動したから。
まるで自分の所有物の如く、美希の話も聞きださないまま、一方的にぶつかったから。


「でも、それ抜きでもいっか。なんて思ったりしてね」


外崎の美希を見る目が微妙に変わった。
切れ長の目だからか、いつも冷たい印象が大きかったりするヤツだけど、今は違う。

大事なものを見るような、優しい目に。