部屋の中央に立って、心底驚いた、という眼差しをオレに向けるのは本物の美希。
ここが外崎の家だなんてことも構わずに、そのままガバッと美希を包み込む。すると、腕の中からくぐもった声が聞こえてきた。


「ゆ――き。苦し……」


“苦しい”と訴えられるほど、力強く彼女を抱きしめる。
しかも、その力を一向に弱められないでいたオレは、さらに指先に力を入れてしまう。


「――なにしてたの」


耳元でひとこと聞くと、美希からはなにも答えが返ってこない。
いつもは自分の方が、人から話しかけられたときの返事が遅いくせに、こういうときだけ、相手に強く出てしまう。


「なんで、勝手に」


自分の想いだけが爆発してしまって。こうなると、制御がきかない。
両肩を掴んだまま、少し体を引き離した。美希は顔を下に向けたままで、どんな顔をしているのかイマイチ読めない。
わかるのは、ほんの僅かに肩が震えてるということだけ。


「あ……の、同期だって……聞いて」


久しぶりに声を聞いたと思えば、求めてるような答えじゃなく。
思わず肩を押し、美希を後退させると、嫉妬心丸出しで責めてしまう。


「忘れてない? アイツ、男だよ?」


その言葉に、ぴくりと美希が反応したのを見逃さない。

――アイツ。まさか、なんか本当にしたわけじゃ……。

そんな想像で、一気にヒートアップしたオレは、完全に周りが見えなくなってしまった。


「――――それと、オレも男だから」


だから、当たり前のように、他の男(ヤツ)に嫉妬もするし、苛立ったりもする。
そんな、嫉妬心を正当化したように、自分が正しいと言わんばかりに動いてしまう。

――ごめん、美希。

頭の片隅にある、冷静な思考がそう掠めたけど、今のオレは留まることを知らなくて。
美希の顔を強引に上向きにさせると、感情のまま、強く唇を押しつけた。