『な。俺が“意外”っつった意味、わかるだろ? なに。ユキとリョウってパーティーあたりから行き来したり――』
「住所っ! 外崎の住所、すぐに教えて!!」
『って、そういうわけじゃないか。やっぱ』
「澤井さん、早く!」


『あー、はいはい』と、呆れ声で澤井さんから外崎の住所を教えてもらう。普段、筆圧の弱めなオレが、珍しくペンを握りしめて走らせたメモを片手に、すぐにマンションを飛び出した。

空白部分がしわくちゃになるほど握りしめたメモ。上部に記載した住所を見て驚いた。

……意外に近い? どんだけ距離があっても、タクシーに乗ってでもすぐに向かおうと意気込んでいたけど。これなら、このまま走って行った方が早いかも……!


真夏の昼下がりに、全力疾走している成人男性は道行く人にどう映るのか。
でも、そんな他人なんてどうでもよくて。
オレはただ、自分の傍にいるはずの人がいないという不安だけで、周りなんかに目を向ける余裕もなかった。

昔は運動が好きで、中学生まではバスケ部に入ったりしていて。高校からは、部活には入っていなかったけど、時間のあるときには体を動かしに出かけていた。
それは20を過ぎても変わらなくて、たまにジムに行くのもこう見えて息抜きのひとつだ。

でも、ここ最近それすらも出来ない状況だったからか――。


「……はぁっ。落ちてんな……体力……」


信号で足止めを食らってるときに、思わず口から零れる。


「あと、もーちょい……」


膝を掴む手に力を込め、信号が変わるのと同時に再び走り出す。
信号を過ぎ、角を2つほど曲がったところに、目的地である建物を見つけた。