「さすがにね。どれだけ前半に頑張っても、後半はいつもコレだ」


自嘲するようにユキセンセは笑った。
そして、昨日と同じ椅子に座り、カズくんたちが置いた原稿を片手で拾い上げる。


「あっ、なにか飲みますか。朝食は……」
「え? あー。じゃあ、水、貰える?」
「水……」
「あ。無くなっちゃったんだっけ」
「あ、いえ。あります。買ってきたので」


さすがカズくん。きっと、これを予想してのメールだったんだ。
起きたあとは、いつもまず水を飲むんだ。覚えておこう。


「ありがとう、助かる」


『ありがとう』とか『助かる』とか。
何気ないことに対してだとしても、そういう言葉がすごくうれしくて、わたしにとっては生きがいだ。

エコバックからペットボトルを取り出すと、それをグラスに注ぐ。
キッチンからちらりとユキセンセを見てみると、すでに昨日のセンセになっていた。


「ここ、置いておきます」
「…………あ、はい」


なるべく邪魔にならない場所にグラスを置く。そのグラスの場所を見もしないで、ユキセンセは手元に集中してる。


でも、かなり間が開いてても、返事を返してくれるだけ、やっぱり寝たあとは違うかも。


わたしの視線にも気付かない彼は、数枚の原稿用紙を交互に眺めてみたり、指でなぞってみたり。
ときどき首を傾げたり、口元に手を添えたりと、なんだか朝から頭をフル回転してるみたい。

そんななか、声なんか掛けられるわけもなくて。
わたしは邪魔にならないようにキッチンへと戻って、買ってきたものを大人しく収納していた。