「――――遅いな」


あれから数十分。
仕事をしようにも、全く集中の波に乗り切れない。

PCの前に座って、立ってうろうろとして。時間を確認して、ソファに腰を下ろして――――の、繰り返し。

なんだ。なんなんだ、この胸騒ぎは。
居ても立っても居られない。けど、オレときたら……。


「――――なんで、聞いておかなかったんだよ……!」


手の中の携帯を両手で握り、額に押し当てて思わず口にした。
今まで連絡手段がなくてもなんとかなってたからって、肝心なところが抜け過ぎだ。

自分の不甲斐なさを携帯にあたるように、ソファの上にボンと投げ捨てる。
くしゃっと、まだ湿っている髪の毛に指を入れ、頭を抱えていたときに家の方の電話が鳴った。

――美希?! ……な、ワケがないか。
ガバッと立ちあがるも、希望の結果ではないことにすぐ気付き、受話器を取りにも動けない。
すると、一定のコール音を過ぎた電話が、留守番機能に切り替わる。


『……ユキ? 寝てんのかー』


あー、澤井さんか……。なんだろう。ネームは一通りOK貰ったはずだし……。あ、もしかして、すでにさっきのいざこざが耳に入って?

オレは杏里ちゃんとのやりとりを思い出し、また溜め息をつく。

当然そんなオレの様子なんか知らない澤井さんは、関係なしにつらつらとメッセージを吹き込んでいく。