「――――初めてだな」
「え?」
「そういうふうに、笑ったの」
「そ、そっちこそ! 出会ってから、全然爽やかな笑顔なんかしてなかったですけど」


今、初めてお互いに、素のまま向き合ってる気がして。
そんな外崎さんは、やっぱりずっとどこかで感じていたように、完全に“悪い人”なんかじゃない。

……まぁ、雪生に対しては、多少黒い気持ちを抱えているんだろうけど。

徐々に減りゆく笑い声がついに止まると、視線を交錯させたまま、外崎さんが言った。


「だとしたら、それがキミの力でしょ」
「――は……?」
「相手(俺)に、そんなカオさせたのは」


――そんな“力”、わたしにある……?
でも、それが本当なら。“だから、雪生もわたしを必要としてくれる”って、ひとつの理由にしてもいいかな……。

それでも、まだまだ足りない。
それだけじゃ、雪生の一部である仕事に、プラスにまではならない。

『役に立ちたい』って、物心ついたときからそれを無意識にでも念頭に置いていた。
それは万人に対して抱えていたものだったけど、好きな人が出来た今。その相手に、一番に『役立ちたい』って思うことは自然なこと。

だから、その逆である『足を引っ張る』ことだけは避けたい。

じゃあ――――じゃあ、わたしはどうすればいい……?


正面に居る外崎さんを真っ直ぐと見ながら、こんがらがってた頭が少しだけクリアになっていく感じを覚えた。
そんなわたしたちの間に、再び、ピンポンと音が響く。

澤井さんが戻ってきた?

そう思った矢先、ピンポンピンポン、とインターホンの音が忙しなく続いた。