机に置かれた、雪生の漫画を見て思う。

わたしも漫画の中に出てくる人なら、紆余曲折を経て、生まれ変わった自分になれているんだろうな。
取り柄のないキャラクターでも、描き手がうまく成長させてくれて。
だけど、現実には……。自分でしか、変えられないんだよね……。

誰かに頼ったり寄り掛かるだけじゃだめ。それは、雪生に甘え続けるのも然り。
与えられた仕事や立場を守るだけじゃなくて、なにか開拓しなければいけないのかもしれない。


「……手、離してください」


ぽつりと反抗を口にすると、外崎さんは驚いた顔をしていた。
案外あっさり手を離してくれた彼は、目を大きくしたまま何度か瞬きをする。それから、またわたしを見て笑った。
けれど、今度は、苦笑とかバカにしたような笑いじゃなくて、本当に楽しそうに――。


「っはは! か弱そうに見えて、意外に根性あるんだ」


――――あれ? こんなふうに笑えるんだ、この人。
今までの悪そうな笑い方より、ずっとこっちの方がいいの、に……。


「なに? 俺に見惚れてんの?」


笑顔に意識を奪われていたわたしに、また、意地悪い顔で試すような口振りをする。
プイッと顔を捻って、「違います!」と即答してやると、またおかしそうに声を出して笑った。

その笑いに、なんだかつられてわたしにも笑顔が伝染する。
完全にブルーな気持ちが拭われたわけじゃないけど、ほんの少しだけ救われた。