未だ、手のひらで振動している携帯を見て固まっていると、いよいよ外崎さんも不審そうにこちらを見た。
ふがいなくもその視線に背中を押される形で、受話器を耳にあてる。


「も――、しもし……」


なにを言われるのか。怖くて怖くて、全身で脈打ってる感覚がして、携帯を握る手は、汗ばんで落としてしまいそうなほど。
固まる視線の先は自分の手元。でも、外崎さんの視線はわたしに向けられてるのを感じながら、一人きりじゃないことにどこか安心したりして。


『……なんにも出来ないくせにっ』


……え? 泣いてる……?

スピーカーから聞こえた声が、想像と違う震えたもので。


『“自分”も持ってないくせにっ……ズルイっ』


奥歯を強く噛みしめながら出していそうなその声と言葉に、今のわたしはなにも言えない。
『“自分”を持ってない』とは、まさにそう。
人の顔色窺って生きてるような、自分だから。だから、彼女みたいに、自信に満ちてるような生き方なんて真似出来なかった。


『なに黙ってるのよ……? ああ。そっか。あたしがダメだったってわかって、笑ってるんだ? “自分が勝った”って。高みの見物のように』
「“勝った”だなんて……!」
『じゃあ、なに? 言いたいこと言えば?!』


杏里ちゃんは、次から次へと正直にぶつかってくる。
けど、わたしはそんなふうに言いたいことも言えなくて……。というよりも、自分が何を伝えたいのかが、全然纏まってない。
時間ばかり掛かって、その間にも相手の時間は進んで行って……。それで、相手はさらにイライラしてしまうんだと思う。

それはわかってるつもりなんだけど――。