「言っとくけど。俺は自分では、頑張ってきたって胸張れる。その動力が、『負けたくない』ってとこから来てても。だから、やることやらないで諦めるとか、むかつくんだよね」


わたしの頬から手を引くと、ポケットに手を突っこんだまま、スッと本棚の方へと移動した。
長い指を引っかけて、一冊の漫画を手に取る。
パラパラと、読むわけでなく、ただ流し見をして。


「コイツは、そういう人間(ヤツ)じゃないから。だからこそ、負かしたいんだよ。俺は」


外崎さんの手にある本は、雪生の本。
そう。さっき、何気なく見た本棚に、綺麗に揃えられてる雪生の『reach』。それから、まだわたしの知らないタイトル――――きっと、過去に描いていたものも。もしかしたら、雪生の出してる本は、全部持っているのかもしれない。


「直接見たりしたわけじゃねぇけど……。批評されてた部分を、必ずと言っていいほど、その次には直す努力をしていたっぽいし。今でも、苦手な部分とか、意識してんだと思うし」


そういう外崎さんを見てると、ふと思う。


「――――外崎さんて」


このタイミングで、携帯の着信音。しかも、自分の、だ。
言葉を遮られ、会話の流れが強制的に止められたわたしたちの間に、まだ、その音は続いていて。


「……出ないの? 俺なら気にせずに、どーぞ?」
「……すみません」
「あーあ。騎士(ナイト)から、かー」


皮肉気味に、漫画に視線を落として外崎さんは言ったけど、そんなんじゃない。
――だって、雪生は、この番号すら知らないんだから。

ポケットから携帯を出し、ぎょっとする。

一体、今度はなんだっていうの――――。