「そんなこと言わないでさ。俺が、イイコト教えてあげるって」


両頬を軽く挟むように、大きな手が触れる。
その手に顔を固定されてしまうと、またキスされてしまうんじゃないか、と一気に不安になってしまう。


「い……『イイコト』って……!」
「手取り足取り……ね?」


妖艶な声も流し目も、やっぱりわたしには不慣れなもので。
『逃げなきゃ』『大声を出さなきゃ』とかすらも、頭を掠めることもなく。
ただただ、上昇する体温。そして、閉じることのない瞼が、前髪で片目を隠しながら“逃さない”とばかりにわたしを見る外崎さんを映す。


見惚れてる場合じゃない! ていうか、“見惚れる”ってなに!
これは、そういうんじゃなくて……そう! 芸能人に対するような、単純に“きれいだな”とか感じるようなもの!

こんなふうな、大人の色香が香る男の人と、近づいたことなんかないから。


「あれ? ……抵抗しないの?」


細めていた目をぱちりと開け、拍子抜けしたように言う。


「……じゃあ、ホントにここに、居るようにしちゃう?」
「……しません」


さっきよりも、弱々しい声で断ると、「ふーん」と大して興味もなさそうな返事が返ってきた。

雪生の仕事に支障をきたしているのは問題だし、それを聞いてしまった今、のこのことマンションに向かう気にもなれない。
でも、この人のところに居るっていうのは絶対違うから、それは否定しなければ。

その思いで口からひとことは出たけれど。