微笑を浮かべてひとこと言い捨て、そのまま去って行ってしまう背中を茫然として見た。

今の「よろしくね?」って言い方……なんか、素直に聞き入れられないのは気のせい……?
嫌味ではなかったと思うけど……。

その微妙な言葉に捕らわれていると、隣から「くす」っと漏れた笑い声が聞こえる。


「気にしすぎじゃない?」


片方の口角をほんの少し上げて、おかしそうに言った。


「……でも、担当の澤井さんがいうんだから――」


それはきっと、余程の事態なのかと思って。


「……まぁ。聞いたことないからね。アイツが落としそうになるなんて」
「『落としそう』……?」
「あー。つまり、“間に合わない”ってこと」


そ、そうなの? そんなに大変なことになってたなんて、気付かなかった……。

改めて、深刻な状況になりつつあるのだ、と息をのむ。
でも、こんななか、外崎さんは全くさっきから変わらぬままで。


「とはいえ、なんとかするだろ」


……なんて楽天的。
けれど、そういう人だから、まだわたしはどん底まで落ちずに居られるのかもしれない。


「そう……ですよ、ね」
「んー。あ! でも、キミをこのまま軟禁してたら“確実”だね」


「あ!」なんて、閃いたようにおどけて言ってるけど、それはシャレにならない!
外崎さんは、やっぱり“悪”ではないと思うけど、『軟禁』とは聞き捨てならない。


「冗談ばっかり言わないでください! それより、わたしそろそろ……」


きょろきょろと時計を探すと、視線の先にはばかるようにして外崎さんが立つ。
目前の黒いシャツから視線を上げようとしたとき、ズイッと顔を近づけてくる。