澤井さんの声に、ハッと赤面しかけた顔を上げ、引き戻される。


「あ、いや……その」


こういうとき、どう返せばいいの?
堂々と、『そうなんです』とかって答えればいいのかな。それとも、曖昧にやり過ごすべき?

言葉を詰まらせたわたしに、軽く口を挟んできたのが外崎さん。


「『そう』。でしょ? それも、溺愛されてるらしい――」


わ! この人、なにを言うの?!

それが事実かどうか、当人であるわたしには適正な判断が下せないから。
そんなふうに他人に言われると、ものすごく恥ずかしい。

耳まで赤くしたまま、わたしはなにも答えられずに、外崎さんを凝視していた。


「……はぁ」


……え。今の、澤井さん……だったよね? すごく大きな溜め息……。

あからさまに吐いた大きな息に、びくりとわたしは肩を竦めた。
その理由がはっきりとはわからない。でも、空気的に、わたしに対してだと思って。

例えるなら、学校で先生に怒られる直前――みたいな。


居心地の悪い感じが体を巡っていく。
いくつになっても、怒られたりするのは慣れないもので。ビクビクと、その続きを待っていると、ついに澤井さんが口を開いた。


「通りで。最近ペースダウンしてるはずだ」
「…………え?」


別に、澤井さんの言い方に悪意が込められてるとか、そういうのは全く感じない。
それでも。その言われた内容が、耳にこびりついて離れない。

『最近ペースダウンしてる』。

澤井さんの言葉から整理すると、要するに、わたしが来てから“そう”なった、ということで間違いないと思う。

……と、いうことは――。


「……そりゃ、朗報だな」


ぽつりと、冗談混じりに外崎さんが間を埋めるように呟いた。

わたしは、仕事を手伝えないし、役に立てないって自負してたつもりで。
だけど、まさか。

――まさか、役に立たないだけじゃなくて、むしろ邪魔をしていたなんて。