気付いたときにはもう遅くて。
「ちゅ!」という軽快な音と、かるーく乗せられた柔らかい感触。

顔面蒼白で両手を口に添えるわたしに、イタズラッ子のような顔で目を細めて「ごちそーさま」と玄関へ去ってしまった。


「う……」


ウソでしょ……。

自分の手を乱暴に押し付けるけど、今の感触が記憶から消えない。

『モノ好きもいるものだ。こんなわたしなんかに、キスするなんて。まぁ、減るものじゃないし、キスで留まっただけ良かったと考えよう』。

なんて、前のわたしなら切り替えてたかも知んないけど!
でも、今のわたしは違う。見た目や、考え方や、性格は変わってないけど! でも、心に大切な人が出来た、今のわたしは――。


……雪生。


呆然としたまま、一人別の世界に立つわたしに構うことなく、外崎さんは来客となにやら話をしていた。

雪生の家とは違って、ここは玄関が割と近い。
話し声も、内容も、耳を澄ませたら聞き取れたけど、今のわたしにはその集中力なんかない。

すると、なんだか男の人二人の声が、こちら側に向かってくる感じがして顔を上げた。


……まさか……まさか、だよね?
だって、だって。キスこそされてしまったけど、あの人そこまで悪い感じしなかったし。そういう危険なことをする人間(ひと)じゃない、って思ってたけど……。

でも、まさか――?

“仲間”を呼んで、ここでこれからなにかするつもりじゃ――――。

ひとつの疑惑を抱えたところに、この部屋を仕切るドアが開かれた。