「……“アキさん”て人は、そういうことも出来る人だったんですよね?」
「――――え」


……なんで、アキのことを知ってるんだ?


意外な人物が、意外な名前を口にしたことに驚きを隠せないでいると、杏里ちゃんはそのまま続けた。


「その人の、代わりなんじゃないんですか? ミキさんなんて」


――心外だ。でも……。


「それは、きみに答えることじゃない」


オレが即答すると、杏里ちゃんはもう一度睨みをきかせてから、ばたばたと家を出て行った。


「……はぁ」


髪をかき上げ、横の鏡に映る自分の姿と目を合わせた。


“アキ”なんて、知ってる人は……あ。もしかして、澤井さん? 全く、本当に口の軽い担当だ。
大体の見当がついて、少しすっきりした。けど、完全に気が晴れないのは――。


「……美希?」


一向に来る気配のない、美希が気になって。