ここまでいうと、彼女の心理の変化なのか、急に目を逸らしてしまった。

迷いが生じてるのか……オレにしがみつく手の力も抜けていて、今なら振りほどけるだろう。
でも、まずはこのまま。彼女の言い分を聞くとしよう。

杏里ちゃんは少し間を置いて、それからさっきよりも若干弱い声を出す。


「……でも、ほんとに“かっこいい”と思ったし。それに、あの人――ミキさんだって」
「美希は“漫画家”のオレなんか知らなかったよ」
「……でも、今は知ってるわけだし。あたしと状況はおんなじだと思いますけど」
「――だとしても。美希はどんなオレでもきっと、無条件で『力になる』って言ってくれるから」


仮に、漫画家じゃなくても、どんな職業であっても。
彼女は本心から、自分の出来うることを最大限に模索して、力を分けてくれようと頑張る。そして、結果、オレを癒やし、支えてくれるんだ。


「そ――んなの、あたしだって……。あたしだって、力になれることありますよ。それに、“どんな”とか仮定の話をしたって、現にユキ先生は“漫画家”なわけだし。それなら確実に、その部分ではあたしの方が――――」


このコの言いたいことはわかる。つまり、自分の“売り”がなにかってこと。
そのプラスアルファで、少しでも有利になれるかもしれないと考えての発言だということ。


「それに。あの人、帰っちゃったじゃないですか。たった一度、鳴らしただけで」


……確かに。ずっと引っ掛かってる。美希が、来ないこと。


「結局、その程度なんですよ。だから、例えば原稿をダメにしたって――」