『二度目のインターホン、聞こえてきませんね?』

杏里ちゃんが言ったあと、しばらく無言で呼出音を待つが、一向になる気配がない。
それは、なにを物語っているのか……?


「……荷物だったかもしれない」


苦し紛れの可能性は、杏里ちゃんに言ったというよりは、自分にそう言い聞かせていた部分が大きい。


「そーですか? だけど、そろそろのはずでしたよ。ミキさんが来る時間」


きゅ、っとオレにしがみつく力を忘れずに、彼女はぽつりと言った。


「……なんで、オレ?」


「はー」っと溜め息混じりに、杏里ちゃんの頭に投げかけた。すると、少し手を緩めて顔を上げると、目をぱちぱちとさせながら答える。


「……ずっと、ファン、でしたから」
「それはありがとう。でも、それだけ? 違うよね、たぶん」


なにかが違う気がして。
とはいえ、オレ自身、偉そうに言えるほどの豊富な経験と、女性の心の知識なんかないんだけど。
でも、オレが美希に対して感じるようなものが、このコからはあまり感じ取れないから。


「今、たまたまオレが描いてるモノが、世間でそれなりに知られていたりするけど。だけど、それは一過性のものかもしれないよ?」


杏里ちゃんは、黙って大きな目をじっとオレに向ける。そしてオレも、その視線から真っ向勝負とでも言わんばかりに見つめ返して続けた。


「そうしたら、ネームバリューなんてないに等しくもなりうるし。きみは、そういうオレなんて想像できないんじゃない?」