こんなところで油を売ってられない! と、部屋を出ようと足を踏み出したとき――。


「――行かせない」


力強い男の人の手。その手に踏み出した方向とは逆に引き寄せられて、“女の子”のわたしは簡単に外崎さんに捕まった。


「なっ……」
「どーせだから、怪しまれるほどの時間は居てもらわなきゃ。ね?」


「ね?」って……! ちょっと! それどころじゃないの、アナタが教えてくれたよーなものじゃない!!


雪生以外の男の人の腕の中。経験したことのない状況。
“何事も経験”なんて聞くけど、この場合、経験したくない気がする。


「離し、てっ……?!」


この人が、極悪人じゃないって知ったからと調子に乗って、手を振りほどこうともがく。
すると、その手が解放されるどころか、より一層力を込められて。
容易く腰を引き寄せられると、まるでどこかの舞踏会のような態勢になってしまい。


「……大人しく、して?」


不本意にも、その手に重心を預けてしまってるから、自分では思うように逃げられない。
笑顔と穏やかな言葉で、外崎さんはそう言った。


――――彼のその前髪が、わたしの顔をくすぐりながら。