「仕事で思うようにならなくても、キミがここに居てくれるようになれば」
「なっ……?! そ、そんなこと……!」
「――――なんて。それは簡単にはいかない、か」


迫りくる顔に、内心びくびくしていたわたし。
でも、急に、また元の口調に戻った外崎さんは、掴んでいた手を離した。


「本当は、それがベストなんだけど。さすがにそこまでは出来ないでしょ」
「……は。はぁ……」


なんなんだろ、この人……。
雪生とは違う意味で、掴みづらいというか。情緒不安定とはまた違う気がするし。
ただ、思ったことは、“完全な悪になりきれない人”――――?


「んでも。こうして、数時間拘束くらいは出来ちゃうから」
「――――!!」


油断していたわたしの頬に、彼の唇が軽く触れる。
それを、不意打ちとはいえ、黙って受け入れてしまったことに、後悔してももうその事実は消えない。

熱くなる頬に、反射的に手を添え、目の前の黒い双眼を凝視する。
彼の長い前髪がはらりと落ち、その毛先がくっついた唇が、楽しそうに動く。


「――ね?」


大人の色香を感じてしまって、思わず赤面してしまう。

このドキドキは、雪生に対してとは違う! ただの、びっくりしたのと同じようなもの!
男の人として“気になる”とか“ときめく”とかとは別物!

だけど、一度跳ね上がった心臓は、なかなか止んではくれない。まして、その驚かせた原因の彼が、まだ、こんなに近くにいるものだから――。