グイッと顎を持ち上げられ、目を細めた彼に言われた。
そこで強引に視線がぶつかったとき、この人の目的は雪生の失墜なのだと確信する。

きっと、さっきの雑誌の頃からずっと。ずっと、雪生に劣ってると悔しい思いをしてきたんだ。
だから、“プロ”という土俵に上がっても、それは終わらない対抗心で。

スポーツのように、勝敗がある世界だなんて知らないけど、この人はそういう類の“勝ち”に飢えていて。そして、その相手は、他の誰でも満たされなくて、やっぱり“春野ユキ”じゃなければだめなんだ――。

――だけど。


「……わたしが、仕事に影響するだなんて、考えられません……けど……」


例えば。付き合ってる彼女の行方がわからなくなれば、心配して仕事を数日投げてしまうかもしれない。
でも、この人が犯罪まがいの監禁みたいなことするとまで思えないし。

仮に、なんらかの事情で一時の勝利を得たとして。
それが持続するだなんて保障もないわけだし、それはこの人が一番わかってそうな気もするんだけど……。


わたしの言葉を聞いた外崎さんは、目を大きくしたあとに、「ぷはっ」と笑った。


「意外! 大人しそうに見えて、言うときは言うね?」
「……」
「でも、キミみたいなコ、嫌いじゃないんだよね、俺も」


それ以上近づかれても、困るっ……!


外崎さんは、後ろのクローゼットに手をついて、じりじりと弄ぶように顔を覗きこんでくる。
それに耐えられなくて、ついに、わたしも手が動いてしまった。

距離を保とうと、彼の胸に突っ張った手は、簡単に押しのけられてしまって。むしろ、そのまま手首を握られて、明らかに不利な形勢だ。