……? 今の「春野センセ」って言い方、ちょっと嫌味に感じたのは気のせい?

心の中で首を捻っていると、わたしたちの間にアイスコーヒーが運ばれてきた。
そのアイスコーヒーのストローを指で遊ばせながら、さらに彼は言う。


「忙しいのに、アシも必要最低限らしーじゃん。しかも、デジタル作業もまだ50パーくらい?」


彼は、カランカラン、と氷がグラスにぶつかる音を何度も鳴らすと、ぴたりと手を止め、アイスコーヒーを口に含んだ。
暑い中歩いたからか、ごくごくっと喉をならして半分ほど飲み終えて、少しなにかを考えたように口を閉ざす。

わたしはというと、自分からなにかの話題を振るでもなく。アイスコーヒーさえも手をつけれずに、向かい側のグラスに視線を落としているだけだ。

そして、自身の唇に押し当てていた手の先を離すのと同時に、外崎さんが言う。


「あ。あのさ。春野センセに渡して欲しいモンあるんだ。せっかくだから、持ってってくんない?」
「『渡したいモノ』……?」
「ちょっと重いけど」
「たぶん、大丈夫かと」


おつかいのような理由がなければ、わたしがここにいるのもおかしい。だから、これが理由なんだと理解して、ならば、それを遂行しなければ、と自然に即答していた。


「あ、そう? じゃ、ちょっといい? ここから5分もしないから」
「あ……はい」


残りのアイスコーヒーを、また一気に飲むと、彼はガタンと席を立った。