来た道を折り返し、雪生のマンションとは逆の方向へと歩くと、ほどなく指定されたカフェを見つけた。

わ……ほんとに、そんなに遠くない距離だ。
駅を出て、全く逆の方向ではあるけれど、同駅というだけでもすごい偶然だと思う。

オープンテラスのあるそのカフェの前で、不審な動きをしていたわたしは、中に入るべきかどうか迷っていた。
見た目の特徴みたいなものを一切聞くのを忘れたわたしもわたしだ。
ぱらぱらと座っているお客さんをチラ見しては、どの人かと模索する。


「“ミキちゃん”?」
「えっ!」


背後から掛けられた声に、肩を上げて声を漏らす。
恐る恐る振り向くと、キャップを被った男の人が。ちょっと長めの黒髪を無造作に結んだその人がわたしを見ていた。


「は……あ、あの……さっきの?」
「ハイ。外崎です。本当に来てくれたんだ!」


「本当に」って……。だって、そっちが重要な話みたいな口ぶりで呼び出したから……。
でも、そんな口ごたえみたいなことを、初対面の、しかも男の人になんか言えるわけなくて。

対応に困っていたら、外崎さんは、「とりあえず入る?」とカフェに入って行ってしまった。

いまさらながら、わたし、とんでもない選択をしたのでは……。

数十分前の自分の勢いに、思い切り後悔をしてももう遅い。
席に案内された外崎さんが、足を止めてわたしが来るのを待っている。

……昼前だし、カフェだし。危ないことにはならないよね。それに、雪生の同期っていうのはたぶん本当だと思うから、なおさらそんな近しい人がヘンなことをするなんて……。

都合のいい考えに纏め上げ、わたしは覚悟を決めて、カフェに足を踏み入れた。