聞こえてきたのは、男の声。でも、知らない声だ。


「え……? あの」


電話だと声が違って聞こえる、ということはわりとあること。そして、男の人で、『ミキちゃん』なんて呼ぶ人は、ヨシさんとカズくんだけ。
カズくんは登録してあるし、つい最近まで雪生もそう呼んでいたけど――。けど、この声は絶対にどちらでもない。

眉根に皺をよせ、探るように返事を返すと、わたしの心情を察した相手が声を明るくして言った。


『あ! 突然すんません! 俺、外崎っていいます。外崎リョウ』
「外崎、リョウ……?」
『あー……知らないか。そりゃそーだよね。俺、お宅の“センセ”なんかより全然知名度低いだろうし』


『“センセ”』……?! それって、つまり、雪生のこと?!
未だに電話の主は誰かも、なぜわたしに電話してきたのかも不明。それでも、ひとつでもヒントになるようなことが聞いて取れて、少し緊張が緩んだ。


『ハジメマシテ。春野センセと一応同期のモノです』
「え?! あ、そうなんですか……はじめまして……」


それでも不信感はいっぱい。奇妙な電話での会話は続く。


『この間、パーティーで久々に会ったんですけどね? 春野センセの連絡先未だ聞けてなくて』


パーティーとか聞くと、どうやら本当に同期みたい。
雪生の連絡先を聞けなかった、っていうのもわかる。けど、なんでわたしのは知ってるワケ?

怪しさで無言になっていても、その外崎リョウという人はそのまま話し続けた。


『最後の方で、春野センセと澤井さんと。あと、新人のコとその担当さんと話していたんだけどね。それで、その新人のコとそのとき繋がって。
そしたら、最近、そのコが春野センセのとこ行く約束したとかで』
「…………杏里、ちゃん?」


『新人のコ』って、ひとりしかいない。そう思ってぽつりと名前を口にした。
すると、外崎さんは、「あ、そうそう!」とさらに饒舌になる。