送信主は、もちろん雪生――――の、はずがない。
【差出人:杏里ちゃん】。
――気付かなかった……!
受信時刻を見れば、今から約10分前。ていうことは、わたしと別れてすぐ……ちょうどココに着いた頃かもしれない。
本文の内容は、至ってシンプル。二行足らずのその文句に、胸にグサリと衝撃を受ける。
【急がなくても、料理も仕事も出来ますし、あたし一人でじゅーぶんですから】。
“そんなことない”と、何度も心の中で反論した。でも、何回目だろう。その反論に根拠も見当たらなくて、だんだんと弱々しいものになっていく。
顔立ちと料理は、人並み。仕事は、誰でも出来るようなことだけ。それも、教えて貰いながら。
それでも、雪生がわたしを何度も抱きしめてくれたのって、なんでなんだろう……?
自分の気持ちに迷いはない。雪生の気持ちを疑るわけでもない。
――――“でも”。
そう思ってしまうのは、なぜ……?
心が大きくぐらついていたわたしの手の中で、メール画面から突如、着信画面に切り替わる。
規則的なバイブ音と共に表示されてるのは、登録されていない携帯番号。
ビビりのわたしは、いつもならそんな着信は怖くてそのままやり過ごしてしまっていた。でも、まともな頭でない今。その着信が、『まさか?』と淡い期待を抱かせてしまう。
「…………は、い」
恐る恐る、震える声で応答する。
『あー。“ミキちゃん”?』