走って戻ってきたものの、当然杏里ちゃんに追いつくことなんか叶わなかった。
暑い中、全速力出したわたしは、なにかのスポーツでもしたあとのように汗がすごい。


でも、正味15分くらい……のはず。
15分というタイムラグが、果たして長いのか短いのか。

はぁはぁと息切れしてる呼吸を、どうにか落ちつけて、わたしはマンションンへと足を踏み入れた。
何度、雪生の部屋番号を押しても、その瞬間は緊張してた。けど、今はその緊張とは全くの別物の緊張。

ピンポン、とこだまする音は、いつでも同じでゆったりとしてる。
それすらも、今のわたしには焦りの一因にしかなり得ない。

応答のないまま、707の表示が消えてしまった。


……なんで、出ないんだろう。
また寝てる? 仕事に集中してるとか……。それにしたって、杏里ちゃんはもう部屋にいるはず。まさか、あの雰囲気なら、まだ彼女が来てないなんてことも考えられないだろうし。

でも、雪生が杏里ちゃんとどうにかなるなんてことも、考えられない。
確かにまだ全然知らないことの方が多くて、自分が“彼女”の位置にいることだって、実感がないけど。

それでも、僅かでも、雪生との時間の中で。彼という人間がどういう人か、ってわかってる。
頭(理屈)じゃなくて、心が、ちゃんと。


不意に携帯電話を手にした。

――ああ。なんてバカなんだろう。
自分から切り出す勇気がない、とか、どう言えばいいのかわからなくて恥ずかしい、とか。
そんなどうでもいい二の足を踏んで、雪生との繋がりを持てないでいるのは、誰でもない臆病な自分のせい。

いまさら、『顔を真っ赤にしてでも聞いておけばよかった』と後悔しても、後の祭り。

自分への溜め息と共に、無意識に携帯で時間の確認をする。
そこには一通の新着メール。