つつ、っとオレの腕に沿って、肩へと目指し来る指先。
その手が首元まで辿り着くと、杏里ちゃんは上目遣いで、さらにオレに近づいた。


「確かにあの人は、キャラ的には魅力あるかもしれませんけど。でも、それだけだと思うんです」


元々長そうな睫毛に、さらに加えた人工睫毛。潤い過ぎなくらいの艶やかな唇。
指一本の動きさえも、とても十代とは思えないくらいに、“オンナ”だ。

若くて可愛くて、スタイルもいい。
まるで、どこかの身近なアイドルくらいになら、なれそうな感じもしないでもない。

だけど、あいにく。オレはそーいうのを求めてるんじゃないんだ、と改めて実感させられた。


「なに、してるの」


柔らかい感触を胸に押しつけられても、それでもなお、オレの身体も心もなんの反応も見せなくて。
ただただ、彼女が近づき、触れるたび――――頭は冴えて冷えゆく一方。


「……好きなんです。漫画だけじゃなくって、ユキ先生自身のことも。昨日からじゃないですよ? それよりも前から」
「……そういうの、いいから」
「あたし、役に立てる自信、ありますよ? こう見えて、料理もしますし、同職ですからそれなりに力になれるかと。もちろん、ホカの方も――」


ああ、久しぶりに、ものすごく面倒なことになってる。
女子から告白されたりするのが初めてなワケじゃないけど、しばらくそういうことから離れてたし。
同じ出版社っていうのが、一番どう扱っていいのか困るところだ。

――いや、違う。

オレが懸念してるのは、出版社とか、仕事とか、澤井さんとか、このコの担当とか。
そういうことじゃない。

美希に、どんなふうに思われるか、とか、どんな顔をするのか、とかだ。
そういう結論(コト)なら、考えるまでもなく、この手を払いのけるだけ、だ。