「……やっぱ、ヘンだよな。オレ……」


洗面所に転がるドライヤーを見て苦笑する。
――だけど、そんなオレごと受け入れてくれてると感じるから。

鏡に映る、タオルで半分隠れた自分の目と目が合うと、早く美希に会いたい一心でドアへと振り返る。
すると、自分でドアを開ける前に、その扉が勝手に開いた。


「――――!」


そして、徐々に見えてくる姿は、オレの予想していた人物ではなくて――……。


「人の気配がしたので、つい……バスルームだなんて知らなくて!」


慌てる素振りを見せて、そう口にしたのは、“杏里ちゃん”だ。


「すみませんっ。オフロ上がりに――」


いや、そういう問題じゃないよね? お風呂あがりのタイミングを覗いたことが問題じゃなくて、もっと、別の――。


「――美希、は?」


オレが目を見開いたまま、ぽつりとそれだけ言うと、杏里ちゃんは逸らしていた目をオレに向けた。


「……ユキ先生とミキさんは、そういう関係なんですか?」
「……オレが先に質問したんだけど」
「あの人、ユキ先生のところに来て、間もないんですよね? その間に、風邪をひいて看病されたらしいとかって、澤井さんが言ってましたけど」


一歩ずつ、動かないオレの元に近づいてくる彼女は、ドサッと手にしていた買い物袋をわざと手離した。
空手になったその手を、ゆっくりと伸ばし、オレに触れる。


「そういうシチュエーションで、近くにいる相手が良く思えちゃうことって、よくあるパターンじゃないですか?」