微妙な間がわたしたちの間を流れると、項垂れていた雪生が、そのままの態勢でぽつりと口を開いた。


「……二度目って……それこそ断る理由が思いつかない」


これが『意外』って言ったら、雪生は『心外だ』って思うかな。
てっきり、そういうのをはっきりバッサリ断るタイプかと思ってたけど、違うんだ。
まだまだ、わかんないことばっかり。

ヘンに感心するように、雪生を食い入るように見つめてると、態勢が変わらない雪生が重ねて言った。


「しかも、“ミキにも会いたい”って入ってた……余計になんて言っていいか……」


あれ……それ、雪生にもわざわざ入れたんだ。なんでだろう? 杏里ちゃんにとって、きっとわたしは邪魔モノなはずなのに。

腑に落ちないメールの真相を考えあぐねていると、いつの間にか頭を上げてた雪生は、こっちを見ているのに気付いた。


「……え」
「――来てね。“ゼッタイ”」


そう言いながら、雪生は、あのゆるキャラのついたスペアキーをわたしに差し出す。それをわたしに受け取らせれば、確実に逃げられないと思って。

「ゼッタイ」の言い方が、鬼気迫るもの……。
さすがにそんな雪生のお願いを無下に出来ないわたしは、頷くほかなかった。

だけど、理由は他にもある。

デスクの上の雪生の携帯。それに視線を向けて、手にある自分の携帯を、きゅ、と握る。
未だに知らない、雪生の連絡先。さりげなく聞けばいいことなのに、その“さりげなく”がうまく出来なくて。

結局、言いだせないまま。そして、聞かれることもないまま今に至るけど……それは、杏里ちゃんのきっかけも虚しく、タイミングを逃しっぱなし。

けど、彼女は簡単に欲しいものを手に入れた。
わたしに濡れ衣を着せたり、そういう強さは正直驚愕したほど。でも、ある意味、なんでも行動に移せるってふうに捉えてしまえば、羨ましいところもある。

いつまでも受け身で、自分が器用に出来ないだけ。なのに、“嫉妬”と“不安”という、単純な理由も手伝って、わたしはまた“次”の約束をした。