「も、ももも、もう……げ、限界、です」


弱々しく両手を雪生の胸に押しつけると、きょとんとして雪生がわたしを見下ろしてた。


「し、心臓がいくつあっても足りない……」


これでもかと、真っ赤な顔を隠すように俯いて言うと、ぽふっと再び雪生に抱き寄せられる。


「……ヤバイ。すごい、かわいい」


そう言った雪生の心音は、確かにさっきよりも速まってる気がした。
今ですら、甘くていっぱいいっぱいなのに、なんだかこのままだと極甘な予感――――。

だ、だめだ。これ以上なんて、溶けちゃう……!

軽くパニックになりかけていたところに、遠くから携帯の着信音が聞こえてくる。
その音は、わたしのものじゃない。

雪生がイヤとかじゃないけど、限界のわたしにはこれ以上のいいタイミングの着信はない、と言わんばかりに、ぱっと顔を上げて言った。


「で、電話!」
「いや、メールだし」
「で、でも、仕事も途中ですよね? そろそろ戻った方が」
「……澤井さんかな」


まるで子供が『ちぇ』っと言いたげなときと同じくらいに、あからさまにがっかりしながら雪生は手を離してリビングに向かって行った。

わたしは「ふー」っと小さく一息吐くと、少し距離を開けて後について行く。


「あれ」