横切っていくときに、艶のある巻き髪からふわっと届く、女の子のいい匂い。
それはわたしの前方を歩いて行ったあとでもなお、背中の中ほどで揺れる髪や、ひらりとしたスカートから香ってくるようだ。


「失礼しまーす。わぁ、景色もいいし、雰囲気もイイ部屋ですね?」


リビングに入ると、そのコはスカートを靡かせるように振り返って言った。


「……そう?」
「はい、とっても! しかもスゴク綺麗にしてるんですね!」


そして辺りを隅々まで見るように、わたしと雪生の前でうろうろとし始める。

雪生が言ってた“見学者”。名前は『杏里』というらしいけど、それが本名なのかどうかは雪生も知らないらしい。

“知らない”っていうか、そもそもあまり興味なさそうな反応だったけど、その理由がなんとなくわかった気がする。

目の前で、まだきょろきょろとしている杏里ちゃんを見て思った。

だって、本来なら、同職なわけだし、それこそ雪生の好きな話についてこれる相手だから、少しくらいは歩み寄ったりするのかな? なんて考えたのだけど。
でも、相手は女の子だし、まだ十代らしいし。加えて、こういうグイグイくるようなタイプは、得意じゃないのが頷ける。

……わたし自身も、どう絡んでいけばいいのか難しいと思っちゃうし。


「あ! さっそく仕事してるんですね!」
「だって“見学”なら、そうじゃなきゃ意味ないんじゃない?」
「……ですよね! ちょっと見せてもらってもいいですか??」


あれ……。なんか今、ヘンな間がなかった?