「……声とか、そういう表情――ズルイくらいだけど」


グイッと腰を引き寄せられて、そんなことを言われても!!
あたふたとしながら、とにかくなにか言わなければ、と頭をぐるぐるさせる。


「そっ……そんなこと言われても! 全然わかんな――」
「うん。オレだけわかってればいーや」


ニコッと笑った今の顔は、いつもの可愛らしい笑顔で。
“よしよし”とするように、わたしの頭を軽く撫でると、腰にあてていた手を離した。


「オレがつまんない話してんなーと思ったら言ってね? 遠慮なく」
「あ……はい。え! いや、でも、そんなことないような……」


そうか。そうだった。コトの始まりは、雪生が仕事の話で暴走した、しない、から始まったんだった。

ほんの数分前の会話なのに、それを吹っ飛ばしてしまうほどなんて。
好きな人とのキスってスゴイ……。

ポーッとしながら脱力していると、ポンっと最後に頭に手を置かれた。


「なら、いいんだけどね」


手の重みを感じながら顔を上げると、目を少し細めて口を弓なりに上げてる雪生が見える。

――あ。今のカオと、キスする直前のカオがおんなじだ。

くちづける寸前に、微かに思ってたことだけど、触れられてしまうと思考が飛んでしまうから。
今、それを思い出した。

雪生って……やっぱり大人なんだなぁ、と感じた瞬間だったから。

普段はマイペースでのんびりした雰囲気を醸し出してる彼は、仕事となると、オーラを感じるほど真剣な顔つきになって。
そして、わたしに触れる直前には、突然男の人にカオなって――――その瞳でわたしを動けなくする。


目の前であどけなく笑う雪生を見上げてそんなことを思っていると、小首を傾げてわたしの視線に答えるように見つめ返される。
その瞳が、また“あの”瞳になるんじゃないかと、ドキドキしてるわたしは、なにを期待してるの。

しばし、無言のまま視線を交錯させていると、わたしたちの間にインターホンの音が聞こえてきた。