「“ジャマ”とかそういう意味じゃないよ? あー、ゴメン、ホント!」


スルッと髪を指から落として、雪生は落ち着かない様子でメガネを押し上げる。


「だ、大丈夫です! そういうんじゃないですから! ゴハンにしましょう! ね?」


両想いでの二人きりっていうのは、すごく緊張する。


「うん。ありがとう」


ちょっと照れた目を細めて、「ありがとう」と言う彼が好き。
そんな小さな小さなことが、いっぱいあって。ちょっとずつ、“好き”が増えていく。そんな感じ。

テーブルにトレーに乗せた夕ご飯を運んでいく。
今日もリクエストを聞いて、作ったもの。サバの味噌煮とお味噌汁と浅漬けと……。そんなごく普通の和食。

コトッと最後にお茶を置いて、「どうぞ」と言うと、雪生は静かに手を合わせて「いただきます」と呟き、箸をつけた。

「美希も一緒に食べよう」と言われていたわたしも、同じように手を合わせて箸を持った。
でも、わたしの視線は目の前のゴハンじゃなくて、雪生に向いてしまう。

『この手で美味しいご飯作るんだね。同じ人間の手なのに。不思議』。

箸を持つ雪生の手を見て、つい数時間前に言われた言葉を思い出す。
そして、クスリと思わず笑いが零れてしまった。


「え? なに?」
「あ、すみません……ちょっと、思い出し笑い……」
「『思い出し笑い』? なにを思い出したの?」


口に運ぼうとしていた手を休め、食いつくように聞いてくる。

隠すようなことでもないんだけど……ただ、なんか、改めて面と向かって言うのも照れるな……。でも、この流れで言わないほうが難しい、か。

手に一度持った箸をそっと置いて、わたしは「こほ」っとひとつ咳払いをしてから答えた。


「雪生が、言ったことを……」
「オレ?」
「『同じ人間の手なのに。不思議』って」
「ああ! それ、今もまた思ってた。だって、サバ味噌とか、オレなら缶詰だもん」


お箸と茶碗を持って笑う雪生の、すらりとした腕から手。指先までを眺めて言う。