「『いて』って言ったのオレなのに、一人にしてゴメン」


そんなふうになんか、全然思ってなかったから、突然の謝罪に慌ててしまう。


「えっ?! いえ! そういうの、ないですからっ」


想いが通じ合ったからと言って、急に四六時中べったりだと、わたしが頭沸騰しちゃいそうだもん!

それに、こういう感じが好きだ。
好きな人が、仕事をしている空間に居られる感じだけで、幸せを感じる。
欲を言えば、その仕事を手伝えればいいのだろうけど、彼の仕事は特に、一朝一夕で出来るような仕事じゃないから……。


「スケジュールに余裕なんてなさそうですよね。このお仕事って」
「まぁ……今はありがたいことに詰まってるけど」
「やっぱり。すごいなぁ……」
「でも、それだけじゃなくて」


ようやく自然と話が出来ていたわたしだけど、雪生は雪生のペースで来るから――。


「視界に入っちゃったら、仕事が手つかずになりそうで」


そういいながら、雪生は頭に置いていた手を、一本に束ねていた髪を辿る。そして毛先を軽く持ったまま、そこにくちづけた。

そういうこと、さらりとしちゃうんだもん! 免疫出来るのが間に合うはずないよ!
髪だって、ずっと伸ばしっぱなしで……普段から綺麗にしておくものなんだね、やっぱり。

夏休み前のメグの話を思い出して、いまさら少し後悔した。
ちょっと肩を落としたわたしに気付いた雪生が、少し動揺したように顔を覗きこみながら言った。