「じゃ、二人のときだけそうすればいいんだ」


“名案”! とでも言うように、すっかり解決したと言わんばかりにユキセンセは一人で頷いている。


「二人のときだけ」――って。
何気なく言ってるけど、それ、わたしにとってはすごい事件なんですけど……。
それに、二人のときだとしても、『ユキセンセ』じゃない呼び方なんて、出来るんだろうか、このわたしが。


悶々と消極的に考えていると、いつの間にか頷くのを止めたセンセの視線が、触れられてる手にあることに気付いた。


「えっ……?」


な、なに……?!

たかが、手。されど、手。
まして相手が好きな人。間近で、手だとしても、じっと見られてしまうとなんだか恥ずかしい。


「この手で美味しいご飯作るんだね。同じ人間の手なのに。不思議」


なぜか突然、話が違う方向に。
そんな“彼ペース”に、思わず吹き出してしまった。


「ふ、ふふっ」
「?」


わたしが笑いだすと、その理由がわからないようで、目をぱちぱちとさせて見上げるセンセ。
もしかしたら、ユキセンセは隠し事とか出来ないタイプで、思ったことを口に出してしまってる人なのかもしれない、と思った。
そういう一面が、下の弟のようにも見えて、どうにも笑いが止まらない。

くすくすと笑い続けるわたしを、首を傾げて見て待つセンセは、未だになんで笑ってるのかなんてピンと来てないみたい。
そりゃ、そうだよね。『コドモみたい』なんて思われてるなんて、わかんないよね。


「ごめんなさい。あまりに……おかしくて」
「おかしい? なんで?」
「いえ……ユキセンセが、純粋で――……っ」


話の途中で、グイッと力強く手を引かれたわたしは、片手で体を支え切れなくなって、バランスを崩した。
前のめりの状態は、センセとの距離が近くなる。

――顔に、触れられるくらいに。


「『雪生(ユキ)』」
「あ……」


なにを言われているのか、すぐにピンときた。
わたしが、“二人きり”なのに、「ユキセンセ」と呼んでしまったから――。