コポコポ、と、お湯を注ぐと、たちまちコーヒーの香りが届く。
その香りは、インターバルを置くのに適している気がするほど、だいぶ動悸が収まったと思う。


「はい。どうぞ」
「あ、ありがとう」


ソファに座っていたユキセンセに、カップを手渡す。


……あれ。わたし、どこに座ればいいんだろう。隣にわざわざ行くのも恥ずかしいし、床に座るのもおかしいよね……。
ていうか、なんだかんだセンセは疲れてるだろうし、仕事もきっとあるんだろうし、長居なんかしない方がいいんじゃ……。

ぐるぐると考えるけど、結局答えまで行きつかない。
明らかに挙動不審状態のわたしを見上げたセンセが、不思議そうな目を向けてくる。


「……あれ。飲まないの?」
「え? あ、えーと……はい。クセでユキセンセのだけを……。ああ! でも、どっちみちわたし、コーヒーってあんまり普段飲まなくて! その、だから……」


動きだけじゃなくて、言ってることも不審すぎるよ、自分!

心の中で突っ込んで見るものの、それをフォローするような力量もない。
あたふたと、その場で混乱していると、センセがテーブルにカップをコトッと置いた。そして空いた手を、そのままわたしの手首を掴まえる。


「……っ?!」


気持ちを確認した後でも、触れられるのが初めてじゃなくても、やっぱり自分の中での“不測の事態”には弱い。
驚いてなにも言えずに、ユキセンセを凝視してしまう。


「あのさ……」