「もーちょっと」と言われたけど、これはどのくらい続くのかな……?

体感時間が長く感じてるだけなのかもしれない。ややしばらく、わたしはユキセンセの胸に顔を埋めたまま。

つらいとかじゃなくて、むしろものすごく幸せなんだけど……けど。このまま密着し続けたら、わたしの心臓がそろそろ持たないんですが……!

心の声が聞こえたのか、というタイミングで、センセはわたしからゆっくりと離れていく。

ホッと安堵しつつも、どこか淋しく感じてしまうのは、普通なのかな?

微妙な感情の狭間にいるわたしは、硬直したまま、視線すらもどうしていいか危うい。
舞い上がって、汗をかいてしまいそうで、落ち着かない気持ちのわたしの前で、センセがボソッと漏らした。


「マズイ……」


反射で顔を上げると、片腕で口元を覆うようにしながら、頬を赤く染めてるユキセンセが目に映る。


「全然余裕ない。オレ……すごいカッコわる……」


ルーズなネクタイ姿も、メガネを外した顔も、照れてる表情も、全部にドキドキとしてしまう。
その場にしゃがみこんで、足元で照れながら項垂れているユキセンセが可愛く見える。
センセのつむじを見下ろして、自然と笑みが溢れてしまう。

わたしはゆっくりと膝を降り、センセと同じ目線にして言った。


「コーヒー。飲みますか……?」


なんの捻りもないひとことだ。我ながらダサくて笑える。
でも、現在のわたしの恋愛レベルではこの程度なのだ。

他愛ない言葉なのに、言ったあと返事を待つまで、ドキドキドキドキ。

蹲った状態のセンセから、「飲む」と答えが返ってきたときも、やたらとうれしくなってしまった。