どんな顔をして出迎えればいいの? なんて言えばいいの?
『おかえりなさい』だと、わたしの家でもないのにおかしい気がする。『どうでしたか?』なんて、「苦手」って言ってたのに言うことも出来ないよね。
だとしたら、無難に……。


「お、お疲れさま……でした」


玄関に辿り着いて、結局そうとしか言えないわたし。
鍵を閉めて、振り向いたユキセンセは、なんだかやつれたような表情をしていた気がする。

――――でも。


「……ただいま」


そう言ってわたしを見たセンセの顔は、すごい穏やかな表情で。
見惚れてしまっていると、ふらりと靴を脱いだセンセが遠慮なくわたしに近づいてくる。


「えっ……ちょっ……だ、大丈――夫」


あわあわと、体調不良なのかと、どうしていいかわからずにいたわたしに、軽く腕を回した彼は肩に頭を預けながら言った。


「……落ち着く」


肩に感じる重みと、響く低音。寝息のような、深い吐息を首筋に感じると、一気に体温が上昇する。
わたしを、こんなふうに一瞬で変えてしまうのは、ユキセンセだけだ。

まるで石になった自分のカラダ。
ギシギシとぎこちなく、手をセンセの腕に添えた。


「あ、の……わたし帰りますから、ゆっくり寝てくだ」
「だめ」
「え?」


ゆらりと顔を上げ、わたしの肩に両手が置かれる。
センセが、無造作に人差し指をネクタイの結び目に突っこんで、それを引っ張った。
そのだらしなく緩んだネクタイから、首筋を辿り視線をあげると、彼の唇が小さく動く。


「癒やして」


センセの声は、簡単にわたしの心を掴むから。
だから、視線が交わって、その瞳がゆっくり伏せられていく瞬間も――。ただ、その長い睫毛を見つめて、鼻先が触れるのを待つ。
そして、同時に、柔らかな唇が触れたとき、その鷲掴みされてた心ごと、ユキセンセに委ねるのだ。