ユキセンセが出て行ってから約3時間。
わたしはなにをするでもなく、L字のソファの隅で、膝を抱える。そしてぼんやりと、目の前のテーブルの上にあるメガネを映していた。

『帰るまで、待てる?』。

そう言われたときの、センセの横顔がずっと頭の中にあって。
あの表情を見てしまったら、例えわたしじゃなくても、勘違いするよね……?
彼は、自分に好意を持ってる、って思っちゃうのは、わたしだけじゃないよね??

そんな自問自答のくり返し。

胸が早鐘を打つと思えば、突然、きゅ! と掴まれたようになって。
そして「はー」と大きな息を吐いて、なんとか自分を保ってる。


「好き」……って、わたしから言うべきなのかな。
けど、いつ、どこで、どのタイミングで? それに、勝手に舞い上がってるだけで、自分が思ってる結果にはならないかもしれないじゃない。

もし、そうなっちゃったら、あと数日のバイトもすごく気まずくなるわけで。
かと言って、平然と笑って、約束の期日まで手伝いが出来る自信は全くもって、ない。

きっと、塞ぎこんで、ユキセンセ見るたびに苦しくなって。

絶対、しばらく立ち直れないよ、わたし。


自分自身に元々自信がないからなのか。それとも、単に、大した恋愛経験がないから、こんなに臆病なのか。
自惚れていいのか、ただの自意識過剰なのかの判断さえ、出来ない。

蹲るようにして固く目を閉じていると、遠くからカチャ、っと解錠の音がした。
弾けたように顔を上げ、ひとつ、大きく心臓を鳴らす。