「じゃあ、連絡先を――」
「……澤井さんに話、通しますから。それでいいですか」


とりあえずこの場をどうにかおさめたくて、オレはそういうことで話しに歯止めを掛けた。

よくわかんないけど、たぶん、このコみたいなタイプに直接の連絡先を教えてしまったら自分が困ることになりそうだし。


とにかく、ここから出て、家に帰りたい。


その思いが勝ったオレは、近くを通りかかったウェイターにグラスを返すと、頭を軽く下げて会場を抜けだした。


「……はぁ」


何度目の溜め息だろう。
人気の少ない廊下を選ぶと、壁にもたれて隠れるようにしゃがみこむ。

俯いた視界に、裾から自分のネクタイが見えた。

人と付き合うのが得意じゃないから、こういう社交的な場は疲れる。
そういう理由を念頭にしていたけど、『帰りたい』って心理はそれだけじゃない。


て、いうか、違うよな……。


それを再確認したら、居てもたっても居られなくなって。

その足でホテルを出てタクシーに乗ると、澤井さんに【寝不足なんで限界です】とひとことメールをして、“彼女”が待つマンションへと戻った。