「いや……話っていっても、大した話なんて出来ないから……」
「特別イイ話をしてくれなくてもいーんです。今度、勉強のためにも、是非ユキ先生の仕事場を見学させて欲しいんですっ」


初めは、三上さんって人に隠れるようにしていたコが、今はズイっと前に出て、オレを食い入るように見つめてくる。
思わず後ずさりしそうになったが、なにせすでに壁側。これ以上下がるところなんてない。


「春野先生さえよければ、ぜひ」
「あー、見学のはずが、手伝いするハメになっちゃうかもよ?」


三上さんが続けて言うと、オレの代わりに、横から澤井さんが勝手に話を進める。


「それでもいいです! むしろ、その方が!」


それに対して、両手を合わせて、ぱぁっと笑顔を振りまく彼女。
なんだろう。若くて、可愛くて、少なからずとも自分に好意は抱いてくれてるはずなんだろうけど。
全然胸に響くものはなくて、ただ、『この場が早く過ぎればいいのに』なんて思う。

……いや。きっと、このコがどうとかより、もっと別の心因、か。


「やる気があるのはいいねぇ。ユキも最近ちょっと追われ気味なことも多いし、いいんじゃない? 予定合うときに、軽くひとコマふたコマ」
「わぁ! ホントですかぁ?!」
「無給でいいならねーなんて」
「もちろんです!」


冗談めいて話をする澤井さんと、きゃあきゃあといわゆる“イマドキ”のコの感じで受け答える杏里というコ。
もうここまで話が進んでしまったら、三上さんや、隣の外崎さんの手前、無下にも出来ないというか……。上手く断る術も思いつかない。

大体、タダで原稿手伝ってくれるっていうなら、澤井さんだって断る理由がないって思ってのことなんだろう。

でも、オレは本当は……。