「ゆ、柚木く、くるし……」

それに今ハグされているんだとしたら、すぐそこに取材対象がいるということだ。だったら急いでインタビューしないと、昼休みが終わってしまう。

「ま、待て、今顔を上げたら」

焦る柚木くんの腕を振り切って顔を出す。イケメンだろうか、いやブサイクでも逆に面白い。そもそも、高校生にもなって忍者のふりをしているというだけで十分面白いのだから。

けれど私は、彼の想いを甘く見ていた。


「…………」

ポニーテールにされた、艶のある真っ黒い髪。首を覆う真っ黒いネックウォーマーみたいな代物。
だけど肝心のその顔は、狐のお面で隠れていた。

「敵に顔など見せぬと言ったろう」

お面で隠れていてもわかる。その顔の下はきっと憎たらしいぐらいの勝ち誇った笑顔だ。


さらばだ!と古風な挨拶と共に柚木くんは風のように去っていく。私と部長はそれを呆然と見つめていた。

とりあえず柚木くんは……。

「暴力を許さない紳士である、っと……」