むくれてみるけれど、木の向こうの彼に見えているかはわからない。


彼の名前は柚木真砂(ユノキ マサゴ)。
新聞部で記事の材料になりそうな人物を探している時、私の学年の人が総じてその名を口にした。

「私、渋川鈴芽(シブカワ スズメ)っていうの。柚木くんのことを記事にしたくて取材しに来ました」

「敵方の名など既に調査済みだ」

敵方って……。
初対面の印象が良い方だとは思わないけれど、そこまで露骨に嫌われているとは思わなかった。

「忍たる者がそう易々と瓦版の取材を受けると思うな、娘」

瓦版なんて言い方、歴史の授業以外で初めて聞いた。

いい。いいね、この適度にキチガイな感じ。本気で真面目にやってることなんだとしたらもっといい。
新聞部たる私が、こんなにネタになりそうな人をどうして見逃していたんだろう。なんて失態だ。

「貴様、もし拙者を瓦版に載せようものなら命はないと思えよ」

そこまで?と首を傾げたところで、私を呼ぶ声がする。