展覧会の会場を出て、クレアはセイに現在の住まいであるメアリー邸まで送ってもらった。


「ここでいいですか?」


「はい。ありがとうございました。
ほんとにすごく感動しました。」


「また、誘ってもいいかな。」


「あの・・・誘ってくださるのはとてもうれしいんですけど、デートのつもりとかでしたら申し訳ありませんが・・・私はまだ学生ですし、あの。」


「どうして?他の学生の女の子たちはデートだなんて言ったらよろこんで出かけてるよ。
もしかして・・・誰か好きな人でもいるのかな?」



「いえ、そんな人は・・・いません。」


「じゃあべつに誘ってもいいだろ。」


「でも、私は・・・私なんてつまらないと思うし、バイトでだってそんな人の興味をひくお話なんてできてなくて。
セイさんはもっと活発で物知りな人が良く似合うと思います。」


「俺が嫌いかな?」


「そういうわけでは・・・男の人が苦手なのかも。ごめんなさい。」


「俺はクレアを誘いたいと思った。
もちろん、気が向かないことだったら正直に言ってくれればそれでいい。

リックに許可をもらいにいったみたいに、さらっと言ってくれていいんだ。
ただ、俺はクレアを誘いたいから。」


「えっ・・・」


「クレアと出かけたいんだ。
無理なことは絶対しない。嫌なら嫌だという顔をしてくれていいから。」


「なんかそんなの申し訳ないです。
私はただのバイトの雇われ人です。」


「君が何者でもどうだっていい。
俺はクレアと出かけたいと思ったら誘う。
ただ、それだけだ。」


「そうですか・・・じゃ、もう帰りますから。」


少しそっけない感じのする別れ際だった。

しかし、セイはクスッと笑いながら去っていった。



1週間ほどして、クレアはまた家まで洋服を取り換えにもどった。

誰もいない自分の部屋なのに、埃も落ちていない。

ゼイルが掃除の徹底をさせているのだろう・・・と思い、家を出ようとしたときだった。


「そう、あわてて帰らなくてもいいだろう?」


「きゃっ!!」


後ろから声がして思わず叫んでしまった。


「自分の家なのにそんなに驚くこともあるまいに。」


振り向かなくても、それがゼイルの声なのはすぐにわかっていた。


「お、お久しぶり・・・ちょっと前と同じで服をちょっとね・・・。」


「いつでも服くらい取りにくればいいものを、俺がいないときを狙って来なくてもいいんだよ。」