月隠れの庭

どっしりとした木の蔵戸には大きな鋳鉄の錠が掛かっており、彼はそっと観音開きの扉と扉の間を指でなぞった。

流星の話では、ここに封印の札が貼ってあったらしいのだが…あれから16年経った今は、その痕跡を探す事はできない。


(ここで正恵さんと人鬼は、どんな時間を過ごしたんだろう…)


僅かに薄日の差し込む林の中、流星の父・正成に借りてきた鍵を使って錠を外しながら、尚人はふとそんな事を思った。

辺りはうるさいばかりの蝉の声が響くばかりで、16年前のあの日のように鬼の声は聞こえない。


(僕に出来る事は、ただ1つ。この寂しい場所で遠い昔の約束を待ち続けている鬼に会うこと……それだけなんだ…)


何の反応もない人鬼の目に不安を覚えながらも、尚人は2重になった扉を開けて薄暗い蔵の中に足を踏み入れた。


ざあぁぁ…。


再び、風が駆け抜けていく。